大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)823号・昭62年(ネ)893号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 但し、原判決主文第一、二項中、訴訟承継前の第一審原告堀口毅に関する部分は同人の死亡により次のとおり変更された。
1 控訴人は、被控訴人堀口千代子に対し四九万四六八一円、被控訴人堀口亨及び被控訴人堀口篤久に対し各二四万七三四〇円、並びにこれらに対する昭和五八年一二月一七日から支払いずみまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 控訴人は、被控訴人堀口千代子に対し四九万四六八一円、被控訴人堀口亨及び被控訴人堀口篤久に対し各二四万七三四〇円、並びにこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払いずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
三 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
(控訴について)
1 原判決中、本件当事者に関する控訴人敗訴部分を取り消す。
2 右部分につき、被控訴人らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
(
被控訴人らは控訴人に対し、各自一四万五七五〇円及びこれに対する昭和六一年一二月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人ら
(控訴について)
1 主文一項同旨
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
(
控訴人の請求を棄却する。
第二主張
当事者双方の主張は、次に訂正、付加するほか、原判決事実摘示中、本件当事者に関する部分と同一であるから、これを引用する。
一 原判決の訂正等
1 三枚目表九行目の「会社であり、」の次に「堀口千代子、堀口亨、堀口篤久、」を、一〇行目の「並びに」の次に「亡堀口毅、」をれぞれ加える。
2 三枚目裏一行目の「労働者である。」の次に「被控訴人堀口千代子、被控訴人堀口亨及び被控訴人堀口篤久は亡堀口毅の、」を加える。
3 四枚目裏一行目の「一〇時間二〇分」を「一〇・二時間、即ち一〇時間一二分」と改める。
4 七枚目表六行目の「特定していない。」を「特定していないし、適当な防禦方法を講じることができない。」と改める。
5 三一枚目表(別紙個人別賃金一覧表(五)の(1))二行目の「田中田蔵」を「田中太蔵」と改める。
6 以下、被控訴人西口、被控訴人西川、被控訴人田中、被控訴人豊沢、訴訟被承継人亡堀口、同西峰及び同中西の七名を指して便宜「被控訴人ら」といい、本件当事者としての被控訴人ら全員を指すときは「本件被控訴人ら」という。
二 主張の補充
1 本件被控訴人ら
被控訴人らを含む控訴人に雇用されているタクシー運転手(以下「控訴人運転手」ともいう。)の一勤務当たりの平均実労働時間(運転時間、手待時間及び残業時間)が一〇・二時間を超える根拠は、次のとおりである。
(一) 勤務の実態からの推計
控訴人の賃金体系は、労働省の改善基準通達に違反して、一勤務当たり四時間三〇分ないし六時間の休憩時間を設定し、通常賃金の六割以上の保障給制度を設けることなく僅か八〇〇〇円の基本給しか支給せずに著しい累進歩合給制度を採用しているため、被控訴人らが目標としている月額六〇万円の運賃収入を掲げるためには、就業規則所定の一勤務当たり四時間三〇分ないし六時間の休憩時間を取っていては不可能であり、右運賃収入を掲げて漸く二六万九二八〇円の実収入が得られる。控訴人はかかる実情を充分認識したうえで、一車一人制を採用することによって、休日、就業規則所定の休憩時間及び拘束時間の前後にわたる時間外にも労働せざるを得ないように仕向け、かつ、時間外手当等の支払いを免れんとする脱法行為を企図しているものにほかならない。仮に、被控訴人らが休日及び時間外労働をせず、一か月二〇〇時間労働に止めるならば、僅か四七万〇五八〇円の運賃収入で一三万一三一九円の実収入しか得られず、到底生計を維持できない結果となる。従つて、被控訴人らは、自らの生計を維持するため、休日労働はもとより、一勤務当たりせいぜい二時間以内の休憩時間しか取らずに所定休憩時間内及び拘束時間の前後にわたる時間外労働に従事していたものであるから、休日労働日を含め一勤務当たり一〇・二時間以上実労働していたことは明らかである。
(二) 訴外三都交通株式会社の実績からの推計
(1) 控訴人運転手の実労働時間を推計するに当たっては、控訴人と同じく大和郡山市域を営業場所としている訴外三都交通株式会社(以下「訴外会社」という。)の運賃収入及び走行距離の輸送実績と労働時間との関係と、控訴人のそれとを対比して推計するのが合理的であるところ、訴外会社と控訴人の昭和五四年から五七年までの一勤務当たりの平均輸送実績は、別紙一覧表(一)記載のとおりである。
(2) ところで訴外会社は、昭和五四年当時、原則として二車三人制(一部一車二人制)の勤務形態を採り、訴外会社に雇用されているタクシー運転手(以下「訴外会社運転手」という。)の勤務時間割は、<1> 一日目が一一時から二四時(時刻については二四時間制で表示する、以下同じ。)までの一三時間拘束、休憩二時間、実労働一一時間、<2> 二日目が一三時から翌日一一時までの二二時間拘束、休憩四時間、仮眠五時間、実労働一三時間、<3> 三日目が<2>終了後の明け番、<4> 四日目が<1>と同じ、<5> 五日目が<2>と同じ、<6> 六日目が<3>と同じ、<7> 七日目が公休日、以下同様の繰り返しで、かつ、一勤務当たり平均二〇分程度の時間外労働をしていたので、一人一勤務当たりの実労働時間は平均一二時間二〇分となる。そして、いずれも平均で、訴外会社が二車三人制を採用していた昭和五四年から五六年度までの一勤務当たりの輸送実績は運賃収入二万六六一六円及び走行距離二一六キロメートルであり、控訴人の同各年度の一勤務当たりの輸送実績は運賃収入二万五八四八円及び走行距離二二四キロメートルであるから、これらに基づき、昭和五四年から五六年度における控訴人運転手の一勤務当たりの平均実労働時間を運賃収入と走行距離の両面より推計すると、それぞれ一一時間五八分、一二時間四七分となる。
12.33×25,848÷26,616≒11.97
12.33×224÷216≒12.79
(3) また、訴外会社は昭和五七年から完全に一車二人制に移行し残業がなくなったので、訴外会社運転手の一勤務当たりの実労働時間は平均一六時間となる。そして、いずれも平均で、訴外会社の同年度の一勤務当たりの輸送実績は運賃収入二万八〇〇〇円及び走行距離二〇〇キロメートルであり、控訴人の同年度の一勤務当たりの輸送実績は運賃収入二万六〇〇〇円及び走行距離一九〇キロメートルであるから、これらに基づき控訴人運転手の一勤務当たりの平均実労働時間を運賃収入と走行距離の両面より推計すると、それぞれ一四時間五一分、一五時間一二分となる。
16×26,000÷28,000≒14.85
16×190÷200=15.20
(三) 大阪市域における実績からの推計
昭和五六年八月における大阪市域のタクシーは大部分一車二人制で、所定労働一六時間、残業二時間三〇分であった。そして、いずれも平均で、大阪市域におけるタクシー運転手の一勤務当たりの輸送実績は運賃収入三万二一七五円及び走行距離二八四キロメートルであり、控訴人の同年度の同輸送実績は運賃収入二万六五一五円及び走行距離一九六キロメートルであるから、これらに基づき控訴人運転手の一勤務当たりの平均実労働時間を運賃収入と走行距離の両面より推計すると、それぞれ一五時間一五分、一二時間四六分となる。
18.5×26,515÷32,175≒15.25
18.5×196÷284≒12.77
(四) 運転報告書の分析による推計
運転報告書に基づき、昭和五四年一二月、昭和五六年三月と一〇月における被控訴人らの勤務実績について分析・検討した結果(<証拠略>)によれば、被控訴人らの一勤務当たりの平均実労働時間は一二時間一四分であると推定できる。
(五) 以上いかなる観点からみても、被控訴人らを含む控訴人運転手の一勤務当たりの実労働時間は一〇・二時間を超えることは明らかであり、むしろこれを遙かに凌駕する時間外労働に従事していた。
2 控訴人
控訴人運転手の一勤務当たりの平均実労働時間が八時間を超えることのない根拠は、次のとおりである。
(一) 控訴人の勤務形態等
控訴人は一車一人制の勤務形態を採り、控訴人運転手の勤務時間割は、<1> 一日目が八時から二二時までの一四時間拘束、休憩六時間、所定労働八時間、<2> 二日目が一〇時から二三時までの一三時間拘束、休憩五時間、所定労働八時間、<3> 三日目が一二時から二四時三〇分(翌日〇時三〇分)までの一二時間三〇分拘束、休憩四時間三〇分、所定労働八時間、<4> 四日目が<3>と同じ、<5> 五日目が七時から一〇時までの三時間拘束、休憩なし、所定労働三時間、<6> 六日目が公休、<7> 七日目が<1>と同じ、以下同様の繰り返しであるから、控訴人運転手の労働時間は変形労働時間制で、一勤務当たりの平均所定労働時間は七時間二〇分であり、所定労働時間と実労働時間が相違したのは、<5>の五日目の実労働時間が八時から一二時までの四時間であった点だけである。従って、仮に、被控訴人らが休憩時間内に労働することがあったとしても、就業規則に違反する労働であり、控訴人の労務指揮権は及ばないし、控訴人が時間外手当の支払い義務を負担する理由はない。
(二) 訴外会社の実績からの推計
控訴人運転手の実労働時間を推計するに当たっては、訴外会社の運賃収入及び走行距離の輸送実績と労働時間との関係と、控訴人のそれとを対比して推計することが合理的であること、訴外会社と控訴人それぞれの昭和五四年から五七年までの一勤務当たりの平均輸送実績が本件被控訴人ら主張のとおりであることは、控訴人も認めこれを援用する。
(1) 運賃収入と実労働時間の比較による推計
訴外会社は、昭和五四年から昭和五五年一〇月まで、原則として二車三人制(一部一車二人制)の勤務形態を採り、訴外会社運転手の勤務時間割は、<1> 一日目が一一時から二四時までの一三時間拘束、休憩二時間、実労働一一時間、<2> 二日目が一三時から翌日二時までの一三時間拘束、休憩二時間、実労働一一時間、<3> 三日目が七時から一一時までの四時間拘束、休憩二時間、実労働二時間、<4> 四日目が<1>と同じ、<5> 五日目が<2>と同じ、<6> 六日目が<3>と同じ、<7> 七日目が公休日、以下同様の繰り返しで、かつ、一勤務当たり二〇分程度の時間外労働をしていた。また、昭和五六年一二月から完全一車二人制となり、残業なしとなった。
一車一人制、二車三人制及び一車二人制等とその勤務形態が異なり、変形八時間労働制の結果一勤務当たりの実労働時間の長さが異なっても、いずれも週四八時間労働制であって、一日平均になおせば八時間労働であることに変わりはないから、訴外会社運転手一勤務当たりの平均所定労働時間は八時間である。本件被控訴人らの実労働時間一二時間二〇分との主張はこの点の誤解に基づいたものである。ただ、訴外会社の場合、二車三人制を採っていた時期には一勤務当たり平均二〇分程度の時間外労働をしていた点に差があるに過ぎない。
従って、これらに基づき、昭和五四年から五七年までの各年度における控訴人運転手の一勤務当たりの平均実労働時間を推計すると、順次、九時間、七時間四二分、七時間三〇分、七時間二四分となり、平均七時間五四分となる。
(S54)8.33×24,888÷23,062≒9.0
(S55)8.33×26,515÷28,781≒7.7
(S56)8.00×26,140÷28,004≒7.5
(S57)8.00×26,000÷28,000≒7.4
(2) 走行距離と運転時間の比較による推計
訴外会社運転手の昭和五四年から五七年度における運転時間は、所定労働八時間から手待時間一時間を控除した七時間であるから、これで訴外会社の同各年度の走行距離を除すると平均時速が三〇キロメートルとなるので、これで控訴人運転手の走行距離を除することにより運転時間を推計すると、順次、八時間〇四分、七時間四八分、六時間三二分、六時間二〇分で、平均七時間一一分となるから、これに手待時間四九分を加えても、一勤務当たりの平均実労働時間が八時間を超えることはないと推定できる。
(S54)242÷30≒8.06
(S55)234÷30≒7.80
(S56)196÷30≒6.53
(S57)190÷30≒6.33
(3) 平均時速の比較による推計
控訴人運転手の運転時間は、所定労働八時間から手待時間一時間を控除して七時間であり、これで一勤務当たりの走行距離を除することにより、控訴人自動車走行中の平均時速を算定すると、約三一キロメートルとなり、訴外会社運転手の平均時速三〇キロメートルと大差はなく、従って、控訴人運転手の実労働時間も訴外会社と同様八時間を超えることはないと推定できる。
(S54)242÷7≒34.6
(S55)234÷7≒33.4
(S56)196÷7≒28.0
(S57)190÷7≒27.1
(34.6+33.4+28.0+27.1)÷4≒30.78
(4) 運転報告書の分析による推計
昭和五四年五月一五日から三一日、一〇月一日から一四日、昭和五五年一月一日から一四日、三月一五日から三一日、昭和五六年六月一日から一四日、八月一五日から三一日、昭和五七年九月一日から一四日、一二月一五日から三一日までの運転報告書に基づき、被控訴人らの一勤務当たりの運転実績について調査した結果によれば、それぞれ平均の走行距離が二二四・八キロメートル、運賃収入が二万五三〇一円、運転時間が六時間四二分、時速が三四・一キロメートルであるから、訴外会社の運転実績とほぼ同様であり、運転時間に手待時間を一時間加えた平均実労働時間は七時間四二分となって、被控訴人らの一勤務当たりの平均実労働時間が八時間を超えることはないと推定できる。
(三) 以上いかなる観点からみても、被控訴人らを含む控訴人運転手の一勤務当たりの平均実労働時間が八時間を超えることはなく、本件被控訴人らの主張は何ら合理的根拠に基づかない不当なものである。
三 控訴人の民訴法一九八条二項に基づく申立
1 控訴人の請求原因
(一) 本件被控訴人らは、原判決の仮執行宣言に基づき、昭和六〇年四月一六日、第三債務者訴外株式会社三和銀行に対する預金債権の債権差押及び転付命令(奈良地方裁判所昭和六〇年(ル)第六四号、同(ヲ)第五一号事件)を得たうえ、当座預金二七三五円及び普通預金二万一一八五円、合計二万三九二〇円を仮執行により取得し、次いで、同月一九日、第三債務者豊沢猛、西口良文、堀口毅及び川端明夫に対する運賃収入の納入請求権の債権差押命令(同(ル)第六五号事件)を得たうえ、同月二一日に堀口毅から四万〇〇一〇円及び西口良文から三万〇二六〇円、同月二二日に豊沢猛から三万二五三〇円及び川端明夫から一万九〇三〇円、合計一二万一八三〇円を仮執行により取得した。
(二) よって、控訴人は本件被控訴人らに対し、連帯して、右仮執行により本件被控訴人らが取得した金員の返還請求債権一四万五七五〇円及びこれに対する右金員を取得した後の昭和六一年一二月一日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 右請求原因に対する本件被控訴人らの認否
右請求原因(一)の事実はすべて認める。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因1(控訴人と被控訴人らの地位等)、2(控訴人の賃金体系)、4(控訴人運転手の月間所定労働時間)、5(被控訴人らの出勤日数)、6(時間外手当の算出方法)及び7(一)(被控訴人らの受領賃金額)の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、被控訴人らが昭和六二年法律第九九号による改正前の労働基準法(以下単に「法」という。)三二条一項所定の労働時間を超える時間外労働及び休日労働をしたかについて判断する。
1 控訴人運転手の所定労働時間及び休憩時間、休日等について
(一) (証拠略)によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(1) 控訴人の就業規則には、控訴人運転手の勤務時間割等につき、<1> 一日目が八時から二二時までの一四時間拘束、休憩六時間、所定労働時間八時間、<2> 二日目が一〇時から二三時までの一三時間拘束、休憩五時間、所定労働八時間、<3> 三日目が一二時から二四時三〇分(翌日〇時三〇分)までの一二時間三〇分拘束、休憩四時間三〇分、所定労働八時間、<4> 四日目が<3>と同じ、<5> 五日目が七時から一〇時までの三時間拘束、休憩時間なし、所定労働三時間、<6> 六日目が公休日、<7> 七日目が<1>と同じ、以下同様の繰り返しである旨記載されているけれども、右就業規則に定める控訴人運転手の勤務時間割の趣旨は、七日目の勤務は存在せず、七日目は一日目に当たるものであり、右<1>ないし<7>の繰り返しではなく、<1>ないし<6>の繰り返しであって、六日一休制、一日八時間以下労働制、六日三五時間労働制、週三五ないし四三時間労働制である。
(2) 控訴人の賃金支給規程には、控訴人運転手の時間外手当につき、週四八時間を超える時間外労働及び休日労働をした場合において超過勤務手当を支給する旨定められている。
(3) 控訴人は、少なくとも、右<5>の五日目につき、七時から一〇時までの三時間拘束、休憩時間なし、所定労働三時間との就業規則の定めにかかわらず、八時から一二時までの四時間拘束、休憩時間なし、実労働四時間の業務命令を出している。
(二) 右認定事実から検討する。
(1) 控訴人は、控訴人運転手の勤務時間割を目して変形労働時間制であると主張しているけれども、この主張が単に毎日の労働時間が八時間ではないという趣旨であれば問題はないが、それが法三二条二項所定の変形八時間労働制との趣旨であれば明らかに失当である。右就業規則に定める控訴人運転手の労働時間はいずれの日も八時間以内であり、同条一項に規定する一日八時間労働の原則を変更する同条二項の変形八時間労働制を定めたものではなく、あくまで同条一項に規定する労働時間を前提とするものである。
(2) また、右賃金支給規程に定める超過勤務手当の趣旨は必ずしも明瞭ではない。もし右規程が一日八時間を超える労働をしても、週四八時間に満たない場合には同手当を支給せず、週四八時間を超える労働をした場合にのみ同手当を支給する趣旨であるとしたならば、控訴人は変形八時間労働制を採っていない以上、法三二条一項に規定する一日八時間労働の原則及び法三七条一項に違反する。従って、右規程は、週四八時間を超える労働した場合には超過勤務手当を支給することを注意的に規定するにすぎないものと解すべきであり、右規程を根拠として、週四八時間に満たないが、一日八時間を超える日の時間外労働につき、時間外手当の支給を拒みうるものではない。
2 控訴人運転手の時間外及び休日労働の存在について
(一) 休憩時間内労働の存否に関する推定
本件被控訴人ら主張の休日及び時間外労働のうち、休憩時間内労働の存否が本件における最大の争点であるところ、タクシー運転手が事業場外における休憩時間を真実どれだけ取ったかの判断は極めて困難であるし、労働者には法及び就業規則等によって定められる休憩時間を取得する権利があり、一方、使用者には、所定休憩時間に労働者を休憩させる義務があって休憩時間内に労働者を就労させることは原則としてできず、労務指揮権も及ばないことは控訴人主張のとおりであるから、特段の事情の認められない限り、タクシー運転手は事業場外における就業規則等所定の休憩時間には、真実休憩したものと推定するのが相当である。
(二) 労働省の通達等の存在
(証拠略)によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(1) 労働省は昭和四二年二月九日基発第一三九号改善基準通達によって、乗用旅客自動車に乗務する運転者の事業場外における労働時間の算定は、出庫時刻から入庫時刻までの時間から所定の休憩時間(実際の休憩時間が三時間をこえているとされる場合には、その事実を運行記録計等により客観的に明らかにすることを要する。)を差し引いた事実によって行うこと、水揚げに対応して算定されるいわゆる歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定給給与と併せて通常の賃金の六割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めること、いわゆる歩合給制度のうち、極端に労働者を刺激する制度を廃止することとし、歩合給の歩率は水揚等の多寡にかかわらず一定率にするよう逐次改善に努めることをそれぞれ通達した。
(2) 更に、労働省は昭和五四年一二月二七日基発第六四二号新改善基準通達によって、労働時間は、拘束時間から休憩時間を差し引いたものとし、この場合において、事業場外における休憩時間は三時間を超えてはならないこと、歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定給給与と併せて通常の賃金の六割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めること、歩合給制度のうち累進歩合給制度は廃止することをそれぞれ通達した。
(3) これら通達の趣旨とするところは、不当に長い休憩時間は歩合給等の賃金体系との関連から休憩時間中も働く可能性があるため、事業場外における休憩時間を制限し、累進歩合給制度を廃止し、保障給を定めることにより自動車運転者の労働時間、賃金等の労働条件の改善を図り、併せて交通事故の防止に資するためである。
(4) 奈良労働基準監督署労働基準監督官は控訴人に対し、昭和五五年一月二六日及び昭和五八年一一月八日の二度にわたって、時間外労働の割増賃金を法定どおり支給していない点、保障給について通常賃金の六割以上の保障をしていない点、賃金台帳に実労働日数の記載をしていない点等につき、是正勧告をすると共に、極端に労働者を刺激する累進歩合給制度及び事業場外での三時間以上の休憩制の廃止、労働時間の厳格な管理の必要等につき指導した。
(5) しかしながら、控訴人は以上の通達、是正勧告及び指導にそう改善措置を全く講じなかった。
(三) 控訴人運転手の勤務の実態等
前示当事者間に争いのない一項の事実に加えて、(証拠略)を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに定る証拠はない。
(1) 主として控訴人側の実情
ⅰ 控訴人運転手は一車一人制(それぞれに専用自動車が割り当てられている。)で、二ないし三人が前示1の<1>ないし<6>を循環勤務し、常態として近鉄大和郡山駅、控訴人営業所等のいわゆる駅待ち・車庫待ちの形態で就労している。
ⅱ 控訴人にはいわゆる三六協定は存在せず、深夜手当の支給はしていたけれども、かって一度も控訴人運転手に対して時間外及び休日労働手当の支給をしたことはない。
ⅲ 控訴人の基本給は、昭和五四年末まで、公休日を含めて欠勤することにより減額する定めになっていた。
ⅳ 控訴人の皆勤手当は、昭和五四年末まで、公休日を含めて一か月のうち一日でも出勤しないと減額され、三日以上出勤しないと支給しない定めになっていた。
ⅴ 控訴人は、休日労働を含め控訴人運転手が就労した日は正確に把握しており、また、時間外労働のうち、所定拘束時間の前後に就労した事実は少なくとも運転報告書に記載されている限度において認職していた。
ⅵ 控訴人は、控訴人運転手が専用自動車を自宅に持ち帰ることを許容しているため、正確な意味での入・出庫時刻という概念は存在せず、従って、正確には勤務開始及び終了時刻すら把握しておらず、運行記録計の装着はなく、また、毎日二二時までに控訴人営業所に帰って納金及び運転報告書を提出すべき義務を定めているだけで、それ以降の時間は全く運行管理をしておらず、控訴人運転手は二二時以降の運転状況を翌日の運転報告書に記載していたため、運転報告書は一勤務単位で作成されていないなど、控訴人運転手に対する実労働時間の把握等の時間管理は極めて杜撰であった。
ⅶ 少なくとも控訴人の自動車運行管理者は、控訴人運転手が休憩時間内及び所定拘束時間の前後に就労するのが常態になっている事実を認識していた。
(2) 主として被控訴人ら側の実情
ⅰ 控訴人運転手で休憩時間を控訴人事業場内で過ごすものはおらず、いずれも事業場外で休憩していた。
ⅱ 控訴人の採用する累進歩合給制度のもとにおいては、例えば、一か月五九万円の運賃収入があれば歩合率は四割で歩合給二三万六〇〇〇円となるけれども、一か月五八万九〇〇〇円の運賃収入であれば、歩合率は三割一歩で歩合給一八万二五九〇円しかなく、僅か一〇〇〇円の運賃収入の差が五万三四一〇円の歩合給の差につながるため、控訴人運転手らは一致して最低限一か月五九万円以上の運賃収入を揚げることを目標とし、一車一人制で専用自動車があって何時でも自由に就労できることから、就業規則及び運行表の存在にもかかわらず、右目標を達成するためには、休日、就業規則所定の休憩時間内及び拘束時間の前後における時間外に就労することが常態となっていた。反面、所定拘束時間内に勤務しない者も存在した。控訴人運転手はこれを目して自由勤務と称していた。
ⅲ 右ⅱの事実を、客観的資料として信用性の高い運転報告書(<証拠略>)に基づいて若干具体化すると、運転報告書を個別的かつ連続的に検討してみるならば(但し、運転報告書の性質上実労働時間を示すものではなく、あくまで乗客を乗車させた時刻であるから、正確には、拘束開始時刻については始業点検時間と乗客確保まで等の手待時間が、また、拘束終了時刻については最終乗客乗車時刻から目的地到達後車庫等に帰る時間及び終業点検時間等の手待時間がそれぞれ考慮されなければならない。)、最初の乗客乗車時刻及び最終乗客乗車時刻からは、個々の運転報告書が前示1の<1>ないし<5>のいずれの勤務日に当たるのかを把握することすら困難であり、勤務日の五分の二存在しなければならないはずの右<3>、<4>の一二時の拘束開始時刻及び五分の一存在しなければならないはずの右<5>の七時から一〇時(或いは八時から一二時)までを拘束時間とする運転報告書の存在を確認することに困難を伴うほどであること、就業規則所定の右<1>から<4>までの四時間三〇分ないし六時間もの長時間休憩を取っているのが常態であるとの形跡は窺えず、むしろ休憩時間内にも就労しているのが常態であるとの形跡が窺えること、所定拘束時間の前後及び休日に就労したことの明らかな運転報告書の存在は枚挙の暇もないこと、就業規則所定の右<1>から<6>までの勤務時間割及び休憩時間は有名無実の存在になっていた。
ⅳ 控訴人運転手は、時間外及び休日労働をしたにつき、控訴人側から禁止されたことのないことはもとより、注意を受けることもなかった。
(四) 以上の認定事実から検討する。
(1) 右(一)で説示したとおり、タクシー運転手は事業場外における所定休憩時間内には真実休憩しているものと推定されるとはいえ、右(二)、(三)認定の事実からすると、右推定を覆す特段の事情があり、控訴人運転手が休憩時間内労働をしていたことは優に認定しうるところであるし、所定拘束時間の前後及び休日に労働をしていたことも明らかである。
(2) そして、控訴人は、休日労働を含め控訴人運転手が就労した日は正確に把握しており、また、所定拘束時間の前後に就労した事実は少なくとも運転報告書に記載されている限度において認識していたものであること、控訴人の基本給及び皆勤手当は、公休日を含めて欠勤することにより減額或いは不支給の定めになっていたこと(但し、いずれも後日改められたが、改正後休日労働を制限する命令ないし指示をしたと認めるに足る証拠はない。)、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人の自動車運行管理者は、控訴人運転手が休日、所定休憩時間及び拘束時間の前後における時間外に就労する実態を、所定拘束時間に就労しない者の存在を含めて「自由奔放な勤務」と評価して認識し、かつ、容認していたものと認められるが、控訴人側においてこれら時間外及び休日労働を制限するために何らかの措置を取ったと認めるに足る証拠はないこと、控訴人は、不当に長い休憩時間が累進歩合給制度との関連からタクシー運転者が休憩時間中にも働く可能性があるため、事業場外における休憩時間を三時間以内に制限し、累進歩合給制度を廃止し、保障給を定めることによりタクシー運転者の労働時間等の労働条件の改善を図り、併せて交通事故の防止に資する趣旨の通達が存在し、更には具体的に二度の是正勧告及び指導を受けたにもかかわらず、不当に長い休憩時間や著しい累進歩合給制度を全く改めることなく(<証拠略>によれば、これが改められたのは昭和六二年一月に至ってからであると認められる。)、元来経済的効率の低いと評価される一車一人制を堅持し続けたことなどからすれば、控訴人は、控訴人運転手が休日、所定拘束時間の前後及び休憩時間内の時間外に就労することを容認していたことはもとより、むしろ奨励していたものと推認しうるところであり、右認定を覆すに足る証拠はない。
(3) 控訴人は、被控訴人らが時間外及び休日労働をしていたとしても、控訴人の指揮下に労働したものではないと主張するけれども、控訴人運転手が、控訴人の容認と奨励の下に時間外及び休日労働に従事していたことは右認定のとおりである以上、その指揮下に時間外及び休日労働をしていたことは明らかであり、右主張は理由がない。
三 被控訴人らの実労働時間の確定について
控訴人運転手が時間外及び休日労働に従事していたことは以上認定のとおりであるとはいえ、被控訴人らそれぞれが具体的に何時、何時間の時間外及び休日労働をしたかについては、断片的に認めうる証拠はあっても、その全貌にわたって的確・具体的に確定するまでの証拠はないが、かかる場合、右認定の実情のもとにおいては、あたう限り各種資料によって推定するのが適当であり、かつ、これをもって足ると解すべきである。控訴人は、請求の不特定及び防禦方法の困難を主張するけれども、本件請求が特定性に欠けるとは解し難いし、防禦方法に困難を来すものとも認め難いことは、控訴人が本件被控訴人らの攻撃方法に対応する防禦方法を講じていることからして明らかであって、この点に関する控訴人の主張は採用し難い。
1 運転報告書に基づく推計
(一) (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、本件被控訴人らが、運転報告書に基づき、被控訴人らそれぞれの一勤務当たりの平均実労働時間を推計したところ、別紙一覧表(二)記載のとおりであり、総平均実労働時間は一二・七三時間になったこと、被控訴人ら全員が時間外労働に従事し、それぞれの実労働時間には顕著な差異のないことが認められる。
(二) この推計方法は、運転報告書という客観的資料に基づくものであり、休憩時間を除く諸数値も殊更過大或いは過少に設定されているとはいえないから、相応の合理性があると評価しうるところであり、殊に被控訴人らそれぞれの実労働時間には顕著な差異はなく、全員が時間外労働に従事していると評価するに足る合理性を持つものというべきである。ただ、本件の最大の争点になっている休憩時間の数値が必ずしも客観的資料に基づくものとはいえない点、休憩時間の数値に計算違い等の誤謬も存在する点において合理性に欠けるとの疑問を感じさせる如くである。しかしながら、その結果が本件被控訴人らの主張する一〇・二時間(なお、本件被控訴人らは一〇時間二〇分以上と主張する点もあるが、本訴請求は原判決別紙個人別賃金一覧表の数値及び計算からして一〇・二時間、即ち一〇時間一二分であることは明らかである。)を二・五三時間も凌駕するものであること、前示二2(二)認定の労働省の通達の趣旨及び二2(三)(2)認定の被控訴人らの労働状況等を斟酌するならば、被控訴人らは、一勤務当たり平均三時間を超える休憩時間を取っておらず、その余の所定休憩時間には就労しているものと推認するのが相当であること等以上認定の事実関係を総合斟酌するならば、被控訴人らは、本件被控訴人らが右推計に際して設定した休憩時間の数値に加えて、更に、平均二・五三時間、即ち二時間三二分以上(右誤謬の存在を考慮してもう少し下回るとしても)休憩したとは到底考えられないからして、結局のところ、それぞれがその対象となった期間、一勤務当たり平均一〇・二時間を超える実労働をしているとの推計結果には合理性があると評価できる。
(三) ところで、控訴人も運転報告書に基づいて推計した結果、被控訴人らの実労働時間を七時間四二分であると主張する。しかしながら、右推計の結果は合理性のあるものと評価し難く、到底採用できない。なんとなれば、控訴人が推計の根拠とする諸数値のうち運賃収入及び走行距離は客観的資料に基づく正確なもので合理性があるとはいえ、(人証略)によれば、運転時間の数値は実際に運転したものではなく、運賃収入六一〇円当たり片道五分の割合で算出したものであり、交通渋滞、信号待ち、顧客との金銭の授受等の実労働時間を考慮していないと認められることに照らして合理性ある数値と評価し難く、時速も同様であり、そもそも客待ちの時間を一切考慮した形跡がないなど手待時間の数値があまりにも低すぎる。
2 訴外会社の輸送実績との比較に基づく推計
控訴人運転手の実労働時間を推計するに当たって、訴外会社の輸送実績と労働時間との関係と、控訴人のそれとを対比して推計するのが合理的であることは当事者間に争いがない。
(一) (証拠略)によれば、訴外会社と控訴人の昭和五四年から昭和五七年までの実働車一日一車当たりの輸送実績は、別紙一覧表(一)記載のとおりであること、右輸送実績は、タクシー業者の申告に基づき、奈良県陸運事務所と奈良県タクシー協会によって集計された公的な数値であることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) ところで、「実働車一日一車当たり」の意味について考えるに、その言葉の国語的意味、右輸送実績は公的な統計であること、(証拠略)によれば、「実働車一日一車当たり」とは、当該タクシー業者が一車一人制、一車二人制、二車三人制等いずれの勤務形態を採っているか、タクシー運転手の一勤務当たりの実労働時間が何時間であるか、当該タクシーがその日一日に何人の運転手によって運転されたかとは無関係に、タクシー業者の保有する実際に稼働したタクシーが一日一車当たりで揚げえた平均輸送実績を示す単位であること、「実働車一日一車当たり」の概念はタクシー業界において既に熟した概念であることがそれぞれ認められる。これを(証拠略)により例示的に説明するならば、控訴人の昭和五三年九月における輸送実績は、一か月当たり延べ実働車両数三〇九台で、これにより七万五〇八二キロメートル走行し、七四一万一二八〇円の運賃収入を揚げたものであるから、それぞれ「実働車一日一車当たり」の走行距離が二四二・九キロメートル、運賃収入が二万三九八七円(但し、正確には二万三九八四)となるというものであって、勤務形態のいかんやタクシー運転手の一勤務当たりの実労働時間が何時間であるかとは直接関係のない単位であることが明らかとなる。従って、当該タクシー業者が一車一人制を採る場合には、実働車一日一車当たりの輸送実績とタクシー運転手の一人一勤務当たりの輸送実績とはたまたま一致するけれども、それ以外の場合には一致せず、「実働車一日一車当たり」と「一人一勤務当たり」の概念を混同してはならないし、この混同が本件紛争を混乱に導いていることに留意すべきである。
ところが、(証拠略)には、訴外会社の昭和五四年から五六年までの輸送実績は、運転手一人一勤務当たりの平均所定労働八時間と残業二〇分を前提とした数値であるとの記載があるけれども、右照会の方法が何項目にもわたって照会者自ら求める回答を長文で整理・記載したうえで単に回答者の署名捺印を求めるという形式によっており、照会の内容に含まれた多岐にわたる事項を正確に弁別したうえでの応答であることを保障するに足る記述方法に欠け、必ずしも客観的とは評価し難いものであるうえ、「実働車一日一車当たり」の概念は既に熟しているものであり、右輸送実績は公的な数値であることに照らすならば、右回答は、「一人一勤務当たり」と「実働車一日一車当たり」との概念を混同をした結果によることは明らかであり、到底採用し難いところである。
(三) 従って、訴外会社の輸送実績と対比して控訴人運転手の実労働時間を推計するに際して留意すべきは、第一に、比較の対象となる訴外会社の平均輸送実績は、「実働車一日一車当たり」のものであって、訴外会社運転手の「一人一勤務当たり」の平均実労働時間、或いは平均所定労働時間ではないという点である。この点につき、控訴人は、訴外会社運転手の一勤務当たりの平均所定労働時間が八時間(昭和五六年一一月まではこれに残業二〇分を加える。)であると主張し、また、本件被控訴人らは、一人一勤務当たりの平均実労働時間が昭和五六年一一月までは一二時間二〇分であり、昭和同年一二月からは一六時間であると主張し、それぞれが相手方の主張を論難するけれども、いずれも「実働車一日一車当たり」と「一人一勤務当たり」との相違を認識せず、これを混同するものであるから、右各主張は採用し難いところである。第二に、訴外会社の平均輸送実績は「実働車一日一車当たり」のものであるから、控訴人運転手の実労働時間を推計するためには、一日一車を運転したのが何人であるかとは無関係に、訴外会社における「実働車一日一車当たり」の輸送実績が何時間の稼働(走行)によって得られたかを明らかにする必要があるという点である。訴外会社が一車一人制を採っていたならば、一日一車当たりの稼働時間と一勤務当たりの実労働時間とは一致するけれども、一車一人制を採っていなかったことは後示のとおりであるから、別途一日一車当たりの稼働時間を確定することが必要である。
(四) そこで、訴外会社における勤務形態等がいかなるものであったのか等を検討する。
(1)ⅰ (証拠略)によれば、訴外会社はいわゆる弁護士照会に対し、昭和五四年から昭和五六年一一月末日までの訴外会社の勤務形態につき、<1> 「一部一車一人制(二車三人制と呼んでいる。)」又は「一車一人制及び一車二人制」を採っていた、<2> 一日目が一一時から二四時までの一三時間拘束、休憩二時間、実労働一一時間、二日目が一三時から翌日二時までの一三時間拘束、休憩二時間、実労働一一時間、三日目が七時から一一時までの四時間拘束、休憩二時間、実労働二時間、四日目から六日目まで右一日目から三日目までを繰り返し、七日目が公休となる変形八時間労働制であった、<3> 昭和五五年一〇月一六日からは「二車三人制と共に一車二人制」を採り、拘束時間を九時間に短縮した、<4> 残業実績は一人一勤務当たり二〇分であった、とそれぞれ回答している。
ⅱ しかしながら、右回答は明瞭を欠き、右回答によっては、訴外会社における昭和五四年から昭和五六年一一月末日までの勤務形態を統一的かつ矛盾なく理解することは困難である。敢えて、(証拠略)及び弁論の全趣旨を斟酌しつつその趣旨を把握すると、訴外会社が二車三人制と呼んでいるものは、二台の車を三人が循環的に乗務する本来の二車三人制とは異なるものであり、一車一人制と一車二人制とが併存する勤務形態を採り、これを併せて二車三人制と呼んでいたもののようであって、本来の二車三人制を採ったことはなく、右<2>認定の勤務時間割は一車一人制用のものであったように一応理解される。
ⅲ 右一応の理解からすれば、右期間における訴外会社の勤務形態は一車一人制と一車二人制とが併存し、一車一人制と一車二人制とでは、運転手にとって週四八時間労働制であることに差はないとはいえ、一勤務当たりの所定労働時間も実労働時間も異なるだけでなく、肝心の実働車一日一車当たりの稼働時間も異なり、かつ、一車一人制に供された車と一車二人制に供された車との割合が判明しない以上、訴外会社が運行に供する実働車一日一車当たりの平均稼働時間も判明しないことになる。従って、右期間における訴外会社の実働車一日一車当たりの平均運賃収入と走行距離は判明しているけれども、そもそも訴外会社の勤務形態自体必ずしも明らかではないし、昭和五七年からではなく昭和五六年一二月に完全一車二人制に変更されたものであるし、ましてや実働車一日一車当たりの平均稼働時間が判明しないとあってみれば、訴外会社の昭和五四年から昭和五六年までの別紙一覧表(一)記載の輸送実績をもってしては、同各年度における控訴人運転手の実労働時間を推計する資料としての的確性を有しないと一応いわざるをえない。
ⅳ なお、(証拠略)には、訴外会社の右輸送実績は一車一人制のものである旨記載されているけれども、右輸送実績は公的な統計であり、かつ、「実働車一日一車当たり」の概念は、既に熟したものであって、訴外会社が併存する勤務形態のうち一車一人制のみの輸送実績を報告したとする必要性も合理性も認め難いし、(証拠略)の照会の方法が適切なものと評価できず採用し難いことは右(二)で説示したとおりである。
(2)ⅰ 前掲(右(1)ⅰ)証拠によれば、訴外会社は昭和五六年一二月一日以降完全な一車二人制を採り一切残業をしなかったから、訴外会社運転手の一週間(公休日を除く六日間)平均の実労働時間は一日当たり八時間であるが、一勤務当たりの実労働時間は一六時間、隔日勤務で、一台の自動車が二人の運転手によって六日間連日一六時間運転されたことになるから、実働車一日一車当たりの稼働時間は一六時間になることが認められる。
ⅱ そうすると、訴外会社の昭和五七年度の輸送実績は、実働車一日一車当たり一六時間稼働することにより、平均して一日当たり二万八〇〇〇円の運賃収入を揚げ、二〇〇キロメートル走行したことになる。
(五)(1) 右(四)(2)で検討した訴外会社の昭和五七年度における輸送実績及び実働車一日一車当たりの稼働時間と、控訴人の輸送実績とを比較して比例計算をすれば、控訴人運転手の昭和五七年度における実労働時間は、それぞれ一四時間五一分、一五時間一二分となり、本件被控訴人らの主張する一〇・二時間を優に超えるものと推計され、右推計に合理性のあることは右2冒頭説示及び弁論の全趣旨から明らかである。
26,000×16÷28,000≒14.85
190×16÷200=15.2
(2) そして、昭和五四年ないし五六年度における控訴人運転手の実労働時間を推計するためには、訴外会社の別紙一覧表(一)記載の輸送実績のみでは足りず、また、訴外会社の右期間における勤務形態は昭和五七年度と異なるとはいえ、右両期間における運賃収入と走行距離は共に大差がないことからすれば、この間に運賃が増額された等若干の事情の相違があったとしても、訴外会社の昭和五四年ないし五六年度における一日一車当たりの稼働時間は昭和五七年度と大差がなかったと推定され、従って、控訴人運転手の昭和五四年ないし五六年度における実労働時間も昭和五七年度と大差はなく、結局のところ、少なくとも本件被控訴人らの主張する一〇・二時間を超えていたものと推定するのが相当である。
(六) 控訴人は、訴外会社の運賃収入、走行距離を対比するという同様の方法から、被控訴人らの実労働時間が八時間を超えないものであることを推計し主張しているけれども、比較の対象とすべき訴外会社の輸送実績が実働車一日一車当たりのものであるのに、訴外会社運転手の一勤務当たりの平均所定労働時間を前提とした推計方法には合理性を認め難い以上、個々の推計内容の不合理性を指摘するまでもなく、失当といわざるをえない。
3 右1、2で検討したように、運転報告書からの推計によれば、その対象となった期間、被控訴人らそれぞれの実労働時間には顕著な差異はなく、全員が時間外労働に従事し、かつ、一〇・二時間を超える実労働をしていたものと推定されるし、訴外会社の輸送実績からの推計によれば、本訴請求の対象となっている全期間、控訴人運転手は平均して一勤務当たり一〇・二時間を超える実労働をしていたものと推定されるから、これらを総合するならば、被控訴人ら全員が本訴請求の対象となっている全期間、平均して一勤務当たり一〇・二時間、即ち一〇時間一二分を超える実労働をしていたものと認められる。
4 そうすると、被控訴人らは、それぞれ原判決別紙個人別賃金一覧表(略)(一)ないし(三)、(五)ないし(八)の各(1)、(2)の残業時間数欄記載の時間外労働をなし(その計算方法は、一か月の出勤日数が二五日未満の時は、一〇・二時間から所定労働時間八時間を減じた数字に出勤日数を乗じ、一か月の出勤日数が二五日以上の時は、出勤日数に一〇・二時間を乗じた数字から一か月の所定労働時間二〇〇時間を減じる。)、同割増賃金額欄記載の割増賃金債権を取得し、その総額は原判決別紙目録(一)記載のとおりになる。よって、控訴人は被控訴人らに対し、それぞれ同目録(一)記載の各金員及びこれらに対する弁済期の後である昭和五八年一二月一七日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払い義務がある。
四 附加金について
1 右三項認定の諸事情を考慮するならば、控訴人の本件割増賃金の不払いについては、法一一四条所定の附加金の支払いを命ずるのが相当である。
2 よって、控訴人は被控訴人らに対し、それぞれ原判決別紙目録(二)記載の各金員及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による範囲で遅延損害金の支払い義務がある。
五 以上によれば、本件被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は右の範囲で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきところ、これと結論を同じくする原判決は相当である。民訴法一九八条二項に基づく申立は、本案判決の変更されないことを解除条件とするものであるから、これについての判断は示さない。よって、本件控訴を棄却することとし(但し、原審における原告堀口毅は当審係属中に死亡したので、原判決中原告堀口毅に関する部分は主文のとおり変更された。)、当審における訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 舟本信光 裁判官 渡部雄策 裁判官 井上繁規)
別紙 一覧表(一)
<省略>
一覧表(二)
<省略>